映画『ワンダーストラック』―時空を超えて結ばれる、孤独な魂たち

 

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映画『ワンダーストラック』―時空を超えて結ばれる、孤独な魂たち

2018.04.20

PHOTO: Mary Cybulski
 
マイノリティ・シネマ・リポート、今回は現在公開中の映画『ワンダーストラック』をご紹介します。
 
『ワンダーストラック』はトッド・ヘインズの最新作。トッド・ヘインズといえば、2015年の大傑作映画『キャロル』を撮った監督です。生の感触をそのまま伝える抜群の表現力でレズビアンの恋愛を描いたヘインズが今回、カメラを向けたのは、子供たちの物語でした。 

2つの時代、2つの物語

『ワンダーストラック』という映画には、それぞれ異なる2つの物語が同居しています。
 
ひとつめの物語は、1977年。ミネソタに住む少年ベン(オークス・フェグリ―)は、実の父親に一度も会ったことがありませんでした。ベンを一人で育てた母親は父のことを語らぬまま、交通事故でこの世を去りますが、ある嵐の夜、彼は母親の遺品のなかから1冊の本を見つけます。表紙に「ワンダーストラック」と書かれたその本には、父親の行方をほのめかす手がかりがありました。おなじ夜、突然の落雷によって聴覚を失ってしまうベンでしたが、父親をさがすため、彼は一人ニューヨークへと旅立つのでした。
 
PHOTO: Mary Cybulski

もうひとつの物語は、1927年。ニュージャージーに住む少女ローズ(ミリセント・シモンズ)は、生まれつき耳が聞こえません。母親のいない家庭で厳格な父親に育てられる彼女の楽しみは、映画を見ること。なかでもサイレント映画のスター女優、リリアンに夢中のローズは、彼女にひと目会いたいという思いから、一人ニューヨークへと旅立つのでした。
 
PHOTO: Mary Cybulski

ともに耳の聞こえない、孤独な2人の子供たち。50年の時を経て、2つの物語は不思議な絆で結ばれてゆきます――。 
 

トッド・ヘインズの映画的こだわり

『ワンダーストラック』はブライアン・セルズニックによる同名のベストセラー小説を原作とする映画です。セルズニックはマーティン・スコセッシによる2011年の映画『ヒューゴの不思議な発明』の原作者としてもよく知られています。
 
この原作を映画化するにあたり、トッド・ヘインズはとても変わったアプローチを試みました。1977年のベンの物語をカラーで、1927年のローズの物語をモノクロで描き、それぞれを交互に進行させることで、まるで織物を織るように映画のストーリーを構築してゆくのです。白黒で綴られる1927年の物語では、トッド・ヘインズの映画的こだわりが冴えわたります。
 

PHOTO: Mary Cybulski

1927年の物語には、耳の聞こえない主人公ローズから見た世界を表現するため、登場人物のセリフをはじめ一切の効果音がつけられていません。ここで流れる音声は劇伴となる音楽のみ。このようにして演出された映像はまさに、劇中でローズ自身が夢中になっているサイレント映画とおなじものです。
 
1927年という時代設定も重要です。「狂騒の20年代」と呼ばれた1920年代、それは映画文化にとっても、最も華やかだった時代のひとつといえるでしょう。当時の映画といえばサイレント。ところが1927年の映画『ジャズ・シンガー』を皮切りに、トーキー(音声つきの映画)が主流となってゆきます。このあたりのことは『雨に唄えば』や『アーティスト』などの映画でも描かれていますね。
 

PHOTO: Mary Cybulski

『ワンダーストラック』が描く1927年のニューヨークはまさにトーキー前夜。映画館の前には新技術を宣伝する看板がズラリと並びます。しかしそれはローズにとって、まったく喜ばしいニュースではありませんでした。耳の聞こえない彼女はサイレント映画をこそ愛していたからです。ローズの味わう孤独が、時流のテクノロジーからの隔絶という角度から表現されています。都会(ニューヨーク)の街を行く “普通” の群衆と、そうではない自分、という構図は『キャロル』の演出にも通じるものです。

ドブの中から星を見上げる

自身がゲイであることを公表しているトッド・ヘインズ監督は、代表作である『キャロル』や『エデンより彼方に』をはじめ、キャリアを通して人種的・性的マイノリティの人物を描いてきました。ともに聴覚障害をもつ2人の子供を主人公とする『ワンダーストラック』のなかに、彼のそうしたマイノリティに対する思いを読み取ることはむずかしくありません。
 

PHOTO: Mary Cybulski

劇中に登場する印象的な言葉があります。
 

“We are all in the gutter, but some of us are looking at the stars.”
 
「我々はみなドブの中にいる。だが、そこから星を見上げている者だっている」

 
これは19世紀の詩人、オスカー・ワイルドが遺した言葉です。ワイルドの作品や生きざまは後世、世界中の作家たちに大きな影響を与えましたが、彼自身はといえば生前、同性愛を咎められたことから逮捕・投獄の憂き目に遭った人物でもありました。
 
そんなワイルドの言葉は、2人の主人公が抱える孤独と不安、しかしそのなかで持ちつづける希望に呼応するものです。

Can you hear me, Major Tom?

さらに劇中、印象的に使われているのがデヴィッド・ボウイの名曲『Space Oddity』です。アポロ11号による月面着陸のわずか9日前にリリースされたこの曲。果てしない宇宙空間からたった一人、地球を見つめる「トム少佐」の圧倒的な孤独感が、オスカー・ワイルドの言葉と対称の位置で共鳴しあいます。
 
地球という “ホーム” を離れ宇宙へと飛び立ったトム少佐。トラブルに遭い地球からの通信も途絶えたのち、彼は「私にできることは何もない」とひとりごちます。おなじく帰るべき “ホーム” を失い、ニューヨークの大都会をたった一人でさまよう主人公たちの境遇を、ボウイの歌が暗示しています。
 

PHOTO: Mary Cybulski

また曲のなかで繰り返される “Can you hear me, Major Tom?(トム少佐、聞こえますか?)” という歌詞。耳の聞こえない2人の子供を主人公とする『ワンダーストラック』のなかでは、この歌詞もまた異なる意味をもつことになります。それは子供たち状態を文字通り表していながら、同時にそんな子供たちの声を聞くことのできない大人たちに対する皮肉のようでもあります。
 
“wonderstruck” とは、英語で「驚きの念に打たれた」という意味です。1927年から1977年へ、ミネソタとニュージャージーからニューヨークへ、そしてオスカー・ワイルドからデヴィッド・ボウイへ。まさに時間と空間を超えて、不思議な運命がつながる物語。その結末にはいったいどんな驚きが待っているのか。ぜひ、劇場でおたしかめください。
 

PHOTO: Mary Cybulski
 

『ワンダーストラック』
監督:トッド・ヘインズ 
脚本・原作:ブライアン・セルズニック
衣装:サンディ・パウエル
出演:オークス・フェグリー、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ミリセント・シモンズ
公式サイト:wonderstruck-movie.jp
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2018年4月6日(金)より角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

 

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