東京藝大が考える「ダイバーシティ」の問題とは?【後編】

 

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東京藝大が考える「ダイバーシティ」の問題とは?【後編】

2017.11.08

東京藝術大学。芸術分野における最高学府として名高いこの大学に、昨年「ダイバーシティ推進室」が誕生しました。そもそも個性にあふれた人物が集まるイメージのある東京藝大にとって、「多様性」とはいったい何を意味するのでしょうか?

インタビュー後半では、東京藝大ならではのダイバーシティのあり方についてお話を伺います。


前編はこちら)

 
(写真左から)海田さん、有上さん

「気にしない」と「無自覚」は紙一重 

――学内では男女の区別などがそもそも重要じゃない、という雰囲気があるなか、そこから「社会」へ出るにあたって逆にそっちに適応する準備をしなきゃいけないという状況はなんだかすごく、変ですよね。学内のほうがむしろ理想的な状態だなっていうふうに僕から見れば思えるんですが……。

 
海田さん そうですね。

 
――それに関連することなんですが、さきほど伺ったように東京藝大は、一般的な大学のように講義を聞いてカリカリ勉強して……というよりも、作品制作にいそしむ、という感じの学校ですよね。しかも東京藝大といえば「芸術分野の最高学府」です。
 
ということは、もともと入ってくる学生も自己表現に長けていて、「人との違い」みたいな部分をこそ尊重するような考え方っていうのはそもそもあるんじゃないかと思うんですね。それでもこのように推進室を設けて、「多様性は大事だよ」みたいなことを押し出す必要というのはやはりありますか? あるいは逆に、個性的な人が集まっているからこそ立ち上がる問題というのもあるのでしょうか。

 
海田さん そうですね。おそらく個性的というか、あんまり枠にはめられたくはない人たちが、学生も教職員も集まっていると思います。もともとダイバーシティ推進室設置のきっかけになった補助金事業というのは、女性研究者支援が目的ですが、特に世界でも日本でも数が少ない理系の女性研究者を増やそうという狙いが背景にあると思います。そこが押し出している方針とかをそのまま当てはめるのはなかなかむずかしいな、というふうにはすごく思っています(笑)。

 
――じゃあ国がこう、ロールモデルというか、提示してくるものに対して、推進室さんのほうでそこを変換するというか、そこに藝大的なアレンジを加える必要があるっていうことですかね。
 

海田さん そうですね。ほかの大学のダイバーシティ推進室とかってわりと女性の、お医者さんであるとか理系の研究者、がロールモデルとして出ていることが多くて。で、そういう人たちが表に出ることの意義はすごく大きいと思うんですけど、たぶん、藝大の人が目指しているものや、そこにたどり着くまでの道順とは異なっているので。かといってあまり、芸術だからといって特別扱いしてもそれはそれであまり良くなくて、バランスを見極めながらっていう感じですかね。いわゆるキャリアデザインに関しても、大手の会社の「女性管理職を増やしましょう」みたいなものを真似してもたぶん……。
 

――うまくはまらないところはありますよね。
 

海田さん かといって、他の研究分野や職業と一緒で「社会」に出る人であることには変わりがなく、「アーティストなんだからそういうの無視してもいいよ」っていうことではないと思うので、むずかしいですね。
 

有上さん あと、カウンセラーの方がおっしゃっていたのは、「自分たちはもう個性を認めてるんだ」っていう自信があるからこそ、逆にそういった個性に無自覚になっている部分があるんじゃないか、ということです。そのため、たとえば、セクハラなどハラスメントの問題は、うちの大学であっても、対策していかなければならない課題です。
 

――ああー、そっかそっか……。

 
有上さん また、うちのばあい大学院もありますので、たとえばほかの大学から院に入った方とかは、学部から藝大の雰囲気に慣れてきた方とくらべてけっこう戸惑うこともあるようです。ほかの大学とは雰囲気が違うところや、距離感とかが違うっていう部分で。
 
「個性を認める」と「個性を意識しない」というのはまた違うと思うので、認めたうえで、という方向に持っていけると理想かな、というふうには思います。
 

――もともと「違い」を気にしていないからこそ、どこが問題なのかが可視化できていないっていうことがあるんですね。
 

有上さん 考える契機が、必要なんじゃないかな? と思います。

女性の支援からダイバーシティを目指したい

――じゃあ色々大変というか……手探りっていう感じでやっていらっしゃるということですよね。

 
有上さん そうですね、手探りっていうところですね(笑)。
 

海田さん あんまりおっきな大学じゃないので、女性研究者だけに対象を絞ってしまうとごく一部の人になってしまいます。なので、女性の学生だったり、研究者ではない職員の女性だったりにもちょっと役に立つようなものを。役に立つというか、講演会をやるにしても、たとえば「マインドフルネス講座」とか「プレゼンテーション講座」とか、女性研究者に限らないテーマのものを、と考えてやりました。
 

――なるほど。ウェブサイトを拝見して「女性の支援にすごく力を入れてるな」という印象を持ったんですけれど、実際にはそれ以上に、できるかぎり多くの人を対象にできるような形で活動されているということですね。
 
それでは最後に、これからの展望や、「こういうふうにしていきたい」ということがあれば教えてください。
 

海田さん 本来の、ジェンダー以外の要素も含んだダイバーシティっていうのが最終的な目標ではあるので、まずは「女性研究者支援」をやってみて、それを女性研究者以外の人にも広げていきたいなと思っていますね。
 
国籍のことや外国人にかんしては、国際関係の部署がまたべつにあります。グローバル化というのは藝大が力を入れているところでもあるので、そちらの部署とも協力していくつもりです。セクシュアルマイノリティの方に対しても情報共有など、カウンセラーの人と相談しながら、できるかぎりの支援をやっていきたいと考えています。私たちだけでは全部を見渡せないので、ほかの部署と共同でやっていきたいなと思っています。
 

有上さん あと、いまは学内の動きで手一杯になってるんですけれども、やっぱり国立で唯一の総合芸術大学というところもあるので、「芸術大学でのダイバーシティってなんだろう?」っていう、そういったものをほかの芸術大学に示せるような役割を目指していけたらと思いますね。
 

――まずは女性の支援をとっかかりに、そこからいわゆる「ダイバーシティ」というところへ裾野を広げていくということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!

取材を終えて

「『個性を認める』ことと『個性を意識しない』ことは違う」という有上さんの言葉が心に残りました。「違い」に寛容であるという自覚があるからこそ、逆に「違い」がもたらす問題に対して無自覚になってしまうこともある。どんな立場の人にとっても、まずは知ることが重要なのだと感じました。

 

WRITERこの記事の投稿者

K野


たすけて・・・

 
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