映画『アトミック・ブロンド』――最強スパイはバイセクシュアル(後編)

 

TOPICSトピックス

2017.11.13

映画『アトミック・ブロンド』――最強スパイはバイセクシュアル(後編)

 

前編はこちら)


前回はシャーリーズ・セロンとソフィア・ブテラ、二人の女性が織りなす絡みの素晴らしさについてお伝えしました。お伝えしました、ってこともないですが、とにかくお伝えしたかったんです。そしてまだ興奮は醒めやらず、今回も『アトミック・ブロンド』のつづきです。
 
 
Ost: Atomic Blonde

相手にされない男

女を抱く女、シャーリーズ・セロン。では男はどうでしょうか。『アトミック・ブロンド』において、セロンと男性のロマンスは描かれているでしょうか。答えはNOです。しかもかなり強めのNOです。
 
シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートンはベルリンで、同じくMI6所属の一流スパイ、デヴィッド・パーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)と出会います。ともに凄腕同士の同業者。この二人が協力しながら絆を深め、お互いの才能を認め合い、死線をくぐり抜けるなかで男女の関係になる。
 
男「女にしてはやるじゃないか」
女「あなたこそ、男のわりによく考えてるじゃない」
 
みたいな軽口を叩きながらしだいに仲良くなってゆく、というのがよくありそうなパターンです。
 
が、『アトミック・ブロンド』のばあい、そういった男女のロマンスは一切起こりません。ロレーンがパーシヴァルのことをまったくもって相手にしないというか、歯牙にもかけないからです。パーシヴァルが凄腕で、狡猾で、抜け目のないスパイであることは間違いないのですが、ロレーンに比べたらどうがんばっても小物に見えてしまうわけです。パーシヴァルは最初からロレーンに馬乗りになって登場したり、その後もなんというか、あわよくばロレーンと深い仲になりたい、みたいな欲望がチラチラ見えるのですが、ロレーンはといえばもう、興味ゼロなわけです。ちょっとパーシヴァルがかわいそうになってくるくらい、男性としては相手にされていません。バイセクシュアルとはいいながら、『アトミック・ブロンド』劇中に異性愛の描写は登場しません。

 

相手にされる男たち

では『アトミック・ブロンド』において、男性はどのような役割を果たしているのでしょうか。答えは簡単で、男たちは主にシャーリーズ・セロンによってひたすら徹底的にシバかれる対象として存在しています。というとただただサンドバッグ代わりになっているみたいですが、そうではありません。男たちは全力です。

シャーリーズ・セロンとソフィア・ブテラを除けば、『アトミック・ブロンド』の登場人物はほとんどが男性です。スパイの社会は表社会同様、あるいはそれ以上に、男性中心主義なのです。だからこそ、その最初から不利な状況をしたたかに生き抜く主人公ロレーンの強さ・カッコよさ・恐ろしさが際立つ。本気で殺しにかかってくる男たちを相手にロレーンは、いやシャーリーズ・セロンは、見ているこちらが縮み上がるような殺気で応戦します。ほとんどすべてのシーンをスタントなしでやってのけたというセロン。撮影中に奥歯を2本失ったそうですが、その理由というのが、殴られたとか転んだとかではなく、「歯を食いしばりすぎたから」だというから驚きです。どこまで最強なんだ。
 
全編にわたってアクションは非常に見応えがあるのですが、なかでも白眉はやはり、中盤で繰り広げられるワンカットの戦闘シーンでしょう。その長さは7分間にも及びます。疑似的なものであるとはいえ観客には完全にワンカットに見えますから、そして画面内で戦っているのはまぎれもなくシャーリーズ・セロン本人なわけですから、これにはもうただただ息を呑むしかありません。『トゥルー・ロマンス』のパトリシア・アークエットを彷彿とさせるようなショットもあり、すさまじい迫力でした。シャーリーズ・セロンは男たちにぶん殴られ、ぶん投げられ、蹴飛ばされ、傷だらけのボロボロになりながら、それでも立ち上がり、立ちはだかる者を徹底的にやっつけてゆきます。

 
ヤバい……


そういうわけで『アトミック・ブロンド』は、端的にいえば「シャーリーズ・セロンをひたすら拝む」映画でした。美しいシャーリーズ・セロン、傷だらけのシャーリーズ・セロン、優しいシャーリーズ・セロン、水風呂に浸かるシャーリーズ・セロン、車を飛ばすシャーリーズ・セロン、ガンを飛ばすシャーリーズ・セロン、金玉を蹴り上げるシャーリーズ・セロン……とあらゆる種類のシャーリーズ・セロンが存分に堪能できます。そして、そのすべてがこの上なくカッコよく、キマっている。これこそ真の大スターの証だと思います。ああ、それから『アトミック・ブロンド』は劇中で使われている音楽もまた最高なんですが、本題から逸れるのでここでは言及しないことにします。とにかく映画館へ見に行ってみてください。最高です。


 

MCR: Back Issues


*「マイノリティ・シネマ・リポート」は毎週 月・金 曜日更新です

 

COMMENTコメント

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してLGBTメディア|レインボーライフは一切の責任を負いません